(日本経済新聞)

トランプ米政権は23日、鉄鋼とアルミニウムの輸入制限を発動した。

日本政府は日本を適用対象から外すように求めてきたが、要求は通らなかった。日本はこれまで安倍晋三首相とトランプ氏の信頼関係を基盤に経済、外交の戦略を立ててきたが、首脳の個人的な関係に頼る限界がのぞく。

「日本の安倍首相らは『こんなに長い間、米国をうまくだませたなんて信じられない』とほくそ笑んでいる。そんな日々はもう終わりだ」。トランプ氏は22日、こう強調した。安倍首相を「いいやつで私の友人」と持ち上げながら、特別扱いはしない、との姿勢だ。

日本が米国に輸出する鉄鋼とアルミニウムにはそれぞれ25%、10%の追加関税が課される。菅義偉官房長官は23日の記者会見で「今回の措置は極めて遺憾だ」と述べた。

この1年間、日米間の通商問題は麻生太郎副総理・財務相とペンス米副大統領の間の「日米経済対話」で議論してきた。日本にとって同対話は「結論を先送りする仕組み」(政府関係者)だった。日本側には油断が生まれた。「米国は首相が嫌がる要求はしてこない」と高をくくっていた。

いまは違う。経済官庁幹部は「農業の市場開放の圧力を強めたり、日米の自動車の貿易を巡って譲歩を求めてきたりするシナリオも想定する」と話す。トランプ氏が熱心な米国製戦闘機の購入要求も再燃しかねない。

円安に振れれば、日本が通貨安政策を取っているとの批判を再びトランプ氏が始める懸念もある。米国が求める日米自由貿易協定(FTA)交渉の圧力も高まりそうだ。経済でこじれれば、北朝鮮問題など他の外交課題で日米の連携に影響が出るかもしれない。

米国はカナダ、ブラジル、韓国、メキシコ、欧州連合(EU)、オーストラリア、アルゼンチンに輸入制限の適用を猶予した。いずれも貿易赤字削減に向けた通商交渉で「ディール(取引)」ができる国・地域だ。

トランプ氏は22日「多くの国は鉄鋼やアルミに関税を払いたくないから、より優れた貿易協定を交渉しようと(米国に)呼びかけている」と述べた。輸入制限を取引材料に譲歩を引き出す狙いだ。

米政権はカナダ、メキシコと2017年8月から北米自由貿易協定(NAFTA)再交渉を進めている。韓国とは18年1月に米韓FTAの再交渉を始めた。EUは米欧間のFTA交渉再開を呼びかけた。米国はこれらの国・地域で貿易赤字を抱え、トランプ氏は貿易障壁をたびたび批判してきた。ブラジル、オーストラリア、アルゼンチンはそもそも貿易黒字国だ。

猶予した7カ国・地域からの鉄鋼輸入は米国全体の6割強。輸入を抑える目的が達成できず、米政権は輸入量の上限枠を設ける方針。関税率引き上げの可能性も示す。

適用除外へ交渉を求めればディールを好むトランプ氏の思うつぼだ。トランプ氏は発言の振れ幅も大きく、各国は同氏の要求を見極める必要がある。それは日本も同じだ。

「EUの鉄・アルミが輸入制限から一時的に除外されたことに留意しつつ、恒久的な除外を求める」。EU首脳は23日公表の文書で、安堵感をにじませつつも、米国を強くけん制した。

米国との「貿易戦争」はひとまず回避できたが「EU市場へのアクセス拡大に結びつける試みは受け入れられない」(高官)として関税撤廃などを狙う米国を警戒している。

投稿者 荒尾保一