(日本経済新聞)

【サンパウロ=外山尚之】10月27日に大統領選を控えるアルゼンチンで、現職のマクリ大統領に逆風が吹いている。年率50%超の高インフレで消費は低調で、外国からの直接投資も落ち込む。中道右派のマクリ氏が進めた規制緩和は目に見える成果に結びついておらず、国民の不満は高まる。4年前に下野した左派陣営は手厚い分配を訴え支持を集め、再選に暗雲が漂っている。

マクリ大統領が進めた開放的な経済政策はなかなか成果が出ていない(2018年12月、ブエノスアイレス)

マクリ大統領が進めた開放的な経済政策はなかなか成果が出ていない(2018年12月、ブエノスアイレス)

世論調査会社シノプシスによる最新の調査で、マクリ氏の支持率は26.2%と、不支持率54%の半分以下に落ち込んだ。インフレや雇用の悪化で、支持率は18年以降下落基調で推移する。

「前回の選挙ではマクリに投票したが、失敗だった。次は他の誰かに投票する」。年金生活のシルビア・フアレスさん(66)はスーパーの店頭で値札を吟味する日々だ。物価上昇で可処分所得は減って生活は苦しいとため息をつく。

15年12月にマクリ政権が発足するまで12年間、アルゼンチンは反米左派政権が率いてきた。金融や貿易は規制が強く、国際的に孤立していた。マクリ氏は経済立て直しの期待を受けて当選し、開放経済へとカジを切った。為替取引規制の緩和や輸出関税の引き下げ、公共料金への補助金削減などの改革を推進した。

国民に痛みを強いる内容も含まれたが、外国投資家や民間企業からは高く評価された。自動車産業を中心に外国企業による巨額の投資表明が増え、回復期待も高かった。

情勢が一変したのは18年4月だった。米国の利上げで新興国経済への懸念が高まり、通貨ペソが急落した。1年間でペソが対ドルで半値以下になり、年率20%台だったインフレ率は右肩上がりで上昇した。国際通貨基金(IMF)への資金支援要請に追い込まれた。

米中貿易戦争の余波で、主要輸出品である大豆など穀物価格の下落も響く。消費も低調で、4月の自動車販売台数は前年同月比52%減少した。マクリ氏の経済運営に対する不信感が広がる。

こうした中、左派陣営は政権奪回へ選挙活動を本格化している。左派内では穏健なアルベルト・フェルナンデス元首相を大統領候補とし、15年まで大統領を務めたクリスティナ・フェルナンデス氏は副大統領候補として選挙戦に臨む。

企業家出身で富豪のマクリ氏の路線を批判し、低所得者向けの補助金増を訴えて支持を集める。汚職疑惑で裁判を抱える前大統領は、自らが一歩身を引き「左派勢力を結集しやすくする狙いがある」(シノプシスのルーカス・ロメロ氏)。

左派陣営はIMFからの支援受け入れを批判している。仮に左派への政権交代が実現すれば経済の混乱が予想され、通貨ペソは下落基調だ。輸入物価の上昇はインフレ加速を招きかねない。

投稿者 荒尾保一